震災帰宅RUN
出発日 2011年 3月11日
天候 晴れ、冷たい向かい風
行程 いきなり強めの縦揺れを感じた。普通ならばじきに横揺れに変わる所だが、
強い縦揺れがかなり続いた。これは遠くでとんでもなく大きな地震が発生
したに違いないと思っているうちに横揺れが始まった。
ゆっくりとした大きな横揺れで、建物がギシギシと音を立てていた。
このままずっと揺れ続けるのかと思われる程、長く大きな揺れだった。
収まりかけてからは、揺れているのか体が揺れているように感じるだけなのか、
分からないような変な感覚だった。

震源地は東北だと聞き、東京でもこれだけ揺れたのだからものすごく大きくて
酷い物だったのだろうと想像がついた。その後の津波により街が流されて行く
映像は、現実とは思えないような悲惨な光景だった。

東京も電車は全て止まってしまい、交通機関は今日中には動かないらしい。
家には電話もメールも通じないし、コンビニ等の近くの店から、すぐに食べれる物が
なくなり始め、どうやって帰るか、または会社に留まるか考えなければならなかった。

東京周辺の川や橋は問題ないようだし、天気も朝の時点では夜に崩れるという
予報だったが回復して来たようだ。関東は停電もしてないようだ。
今日は帰りに走る予定で、シューズからウエアまで一式を持っていて、カロリー
補給のゼリー類も持っていた。
年末年始は3回都内まで走ったし、昔の職場は場所が異なるけど歩いて家まで
帰った事もあり、道は結構頭に入っている事、来週フルマラソンの大会に出る予定で
体はそこそこ出来上がっている事等、条件はほとんど整っていた。
NaviTime で検索すると距離は37Km ぐらい、自分の射程圏内で、徐々に走って帰宅に
傾いて来た。

ゼリーを食べ、カロリ補給用のバーを食べ、アミノ酸の顆粒を飲み、25Kmぐらいは
走り続けられるエネルギーを注入した。ランニングウエアに着替え、防寒のため、
ダウンと履いていたスラックスをリュックに詰めた。ランニングシューズに履き替え、
6時半頃に会社を出発して走って帰宅する事にした。

大きな誤算だった。幹線道路は車が立ち往生して動かず、歩道には人があふれ
走るどころか普通の速度でも歩けない混雑だった。4時間近く走り続けないと帰れない
ランナーにとって、この環境は辛いものだった。仕方がないので脇道にそれ
走り始めた。

人が減り走りやすくなったけど、道が違う方向に曲がってしまったり坂道になったり
気を抜くと幹線道路に戻ってしまったりで、なかなか行きたい方向に行けなかった。
所々で壁が崩れてたりして通行禁止にしている所もあり、地震の凄さを改めて
感じた。山の手線の外側に出ると、車は相変わらず動かないけど人は少し減って来て
動きやすくなって来たので幹線道路を走った。帰宅する人に暖かな物をサービスして
いる人たちがいて、もらわなかったけど少し暖かさを感じた。

練習で良く知っているエリアに入ってからは、車がほとんど通らない裏道を走った。
さっきまでの動かない車の列が嘘のようで、人も車も全く存在してない静まり返った
道を走り続けた。

ワンショルダーのリュックで、揺れ止めの為に留めひもが付いていたが、これが
走っていると胸のところにあたり、徐々に痛くなって来た。外すと横に揺れて
走りづらいので、仕方なく付けたまま位置をずらしたり手を挟んだり逆向きに付けたり
してみた。

25Km ぐらいで何か補給しようと思っていたが、結構寒くて喉が渇かなかったので
30Km辺りまで無補給で走った。この辺りから体の中のいろんな物が欠乏して
パワーが切れて来たのでコンビニでゼリーとチョコレートバーを食べた。
止まっている間に体が冷えてしまい震えが来る程になったので、リュックからダウンを
取り出して着込んだ。しばらく走っているうちに食べたものが効いて来たのか
体が暖まり始めた。走る気力の低下も徐々に回復し、少しつりかけていた足も
快調に走れる状態に戻って来た。

停電ではないけれどかなり暗い部分があり、段差が見えず足をぶつけこけかけてからは
暗い所はかなり速度を落として走った。
40Km弱走って自宅に到着した。以前にもう少し近い場所から歩いて帰った時より
疲れは少なく、走れる体になっているなと実感した。

感想 自分の力で、走って家まで帰る事が出来る事は、いざという時に自信や安心感につながる
気がする。だけど今回のように条件が揃っている事は少なく、また停電や瓦礫があれば
とても走って帰れないし、雨や寒さ対策、補給する物がなかったりすると長期戦は苦しい。
東京直撃の地震だったら今回のような行動は無理だと思われる。
また、最初は自転車が最適かなと思っていたが、都内の車と人の密集を考えると、
自動車はもちろん、自転車も機能しなくなると思われる。

今日の人と車の滞りを見ていると、これだけの人が毎日都心に集まり毎日家へ戻るのが
何だか凄い事のように思えて来た。逆にとても微妙なバランスで成り立っている気もして
何か少しでも滞るとバランスを崩し、安定を取り戻すのに混乱と時間がかかるような
気がする。